インタビューココだけ | 機動戦士ガンダム Twilight AXIS 赤き残影

大ヒット上映中!『機動戦士ガンダム Twilight AXIS 赤き残影』金世俊監督スペシャルインタビュー

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ガンダムファンクラブで独占配信した全6話構成のショートアニメに新作シーンを加えた特別編『機動戦士ガンダム Twilight AXIS 赤き残影』が、2017年11月18日(土)より全国15館にて2週間限定で『機動戦士ガンダム サンダーボルト BANDIT FLOWER』と同時上映され、ガンダムファンを中心に大きな話題を呼んでいる! そこで今回は、大ヒット上映を記念して、金世俊監督のスペシャルインタビューをお届け。アニメーターを目指すきっかけから監督になるまで、そして初監督作品となった本作について話を伺った。

韓国で日本のアニメを見て育った少年がアニメーターを目指す

──金監督は韓国のご出身ですが、日本のアニメーションの世界へ入ることになったきっかけは何だったのでしょうか?

故郷がわりと田舎のほうだったんです。韓国は受験戦争が日本よりも厳しいとよく言われていますが、子供のころは塾に通っていたわけでもなくて、兄弟で絵を描きながら遊んでいました。中学生ぐらいから絵を描く仕事をやってみたいと思うようになって、そのころは漫画家を目指していたんです。ひとりで作品を作っていくスタイルが好きだったというのもありますね。それで高校を卒業したら、日本の専門学校で漫画を勉強しようと思っていたんです。同じころに日本の出版社に何度か漫画の短編を送ってもいて、編集者さんから「うちで漫画を描いてみないか?」とお誘いをいただいたんですよ。けどもう出国する3日前だったので辞退させてもらったんです。その時に思ったのが、“編集者から誘われるくらいには自分に漫画の技術があるのなら、学校では漫画を勉強しなくていいんじゃないかな?”だったんです。入学した専門学校は2年制で、2年目に漫画かアニメのコースを選択できるシステムでした。漫画は卒業してもまた一人でチャレンジできるけれど、アニメは未知の世界だったので、まずはアニメ・コースを進むことにしたんです。アニメもすごく好きでしたし。

──当時の韓国で、日本のアニメは一般的な家庭でも見ることができたのでしょうか?

民放のテレビ番組などで普通に見られるようになったのは、軍事政権が終わってからですね。1998年に金大中(キム デジュン)さんが第15代大統領に就任したことで、韓国の民主化・自由化が加速したんです。それまで禁止されていた映画や音楽、アニメといった文化の交流が韓国と日本で盛んになった時期でもあったんです。ただそれ以前でもレンタルビデオ店に行けば、輸入されてきた日本のアニメや番組が並んでいて、普通に借りて見ることができましたね。

──当時はどんな作品をご覧になっていたんでしょうか?

韓国に入ってくるのはシリーズが終わって全巻まとまってからなので、タイムラグがあったんですよ。印象に残っているのは劇場版『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』(1984年)ですね。あとはTV『機甲創世記モスピーダ』(1983年)のオープニングを観たときはびっくりしました。作画を金田伊功さんが担当されていて、今でも好きですね。兄たちは作画オタクで、昔の名作を探してきては僕にも見せてくれていたんですよ。当時、見た作品からも大きな影響を受けたので、兄たちには今でも感謝してます(笑)。

──今、振り返ると専門学校ではどんなことがいちばん勉強になったと思われますか?

『マジンガーZ』(1972年)や『海のトリトン』(1972年)でキャラクターデザインをやられていた羽根章悦さんが講師でいらっしゃっていて、かわいがってもらったんです。羽根先生はアニメの黎明期で活躍された方で、講義以外でもお話ししたりお酒を飲んだりする中で、いろいろアドバイスしてくださったんです。羽根先生との出会いがあったおかげで、アニメーターとしてのベースを確立できたと思っています。

せっかくサンライズへ入ったのなら“メカ”を!

──専門学校を卒業してサンライズに入られたのでしょうか?

まず新人を育成する「サンライズ作画塾(当時は若木塾)」に入ったあと、2006年から第1スタジオ(1スタ)の奥にある作画室というところに机を置かせてもらって、アニメーターのキャリアが始まりました。アニメ―ターの経歴は11、12年くらいですね。

──影響を受けたアニメーターさんや演出さんはいらっしゃいますか?

特定のアニメーターさんに憧れてこの仕事を選んだわけではなくて、自分の作品を作るのが目標だったんです。当時はまだわからないことがたくさんあったので、いただくカットも好き嫌いで選ばず何でも引き受けてました。今ではメカアニメーターという印象が強いのですが、最初はメカをあまり描いたことなかったんですよ。作画室時代にキャラクター作画監督のお仕事もいただいたことはあったのですが、せっかくサンライズに入ったのだから、メカをやらないのはもったいないなと思って、ガンダム作品をメインでやっていた第3スタジオに移って本格的にメカを描くようになったんです。多分、サンライズに入らなかったら、ここまでメカを描くことはなかったかもしれませんね。

──契機となった作品はありますか?

どんな作品も仕事として始めたら楽しくなっちゃうんですよ。もちろん辛い部分もあるんですけど、終ってみれば何かしらの糧になってますね。例えば『機動戦士ガンダムUC』(2010年)は、メカニカル総作画監督の玄馬宣彦さんが『UC』で新しいことをやろうと頑張られていて、ちょうど1スタに戻って玄馬さんの隣で仕事をやらせてもらっていたんです。玄馬さんに質問したり、お話もたくさん聞くことができて、振り返ってみるとメカを描くことに関してかなり影響があったんじゃないかなと思えますね。最近はサンライズ以外の作品にも参加するようになって、やったことのないジャンルや組んだことのないスタッフさんと仕事をするようにしていて、TV『ワンパンマン』(2015年)にも参加したんです。すごく技術の高いアニメーターさんたちと一緒に仕事をすることができました。

プロットを膨らませて6本のショートフィルムに

──『Twilight AXIS』が監督デビュー作となりますが、監督だけでなく脚本、絵コンテ・演出、メカニカルデザイン、キャラクターデザイン、作画監督、原画まで担当されています。参加されることになった経緯を教えてください。

Ark Performanceさんのプロットを元に、クリエイター4、5人くらいがそれぞれ劇場用のトレーラーみたいなPVを作るというのが最初の企画でした。それからしばらくして、ひとつのストーリーを6本のショートフィルムに分けて制作する企画に固まっていったんです。その監督を自分に頼みたいと谷口理プロデューサからオファーをいただいて参加することになりました。初監督作でしたが尺が短いこともあって、脚本や絵コンテも含めてある程度、自分の裁量でやらせてもらえることになり、今の座組みになっていきました。

──どのようにストーリーをまとめられていったのでしょうか?

Ark Performanceさんがいくつか書かれたプロットの中で、自分がいちばん気に入ったのが『Twilight AXIS』の雛形になったサイドストーリーでした。それを膨らませていった感じですね。最初のプロットはA4サイズ一枚に収まるくらいのもので、手を加えて最後は10枚くらいになりましたが、それだけだとショートフィルムとはいえ、見てくださる方に何かを伝えることは難しいなと思ったんです。それで最低限のドラマを盛り込んで絵コンテを切っていったら、尺が今の2倍くらいに膨らんでしまって(笑)。メインスタッフで参加していただいた阿部慎吾さんと相談しながら150カットくらい削りました。

──『Twilight AXIS』で金監督がこだわりの部分はどこでしょう?

メカアニメーター出身の監督だからメカアクション中心の構成だろうと思われた方がいらっしゃったかも知れませんが、必然性のない場面でむやみにメカアクションを入れるのは、疑問を感じてしまうほうなんです。それは阿部さんも同じ意見でした。

──確かに全編がメカアクションというわけではなくて、短い尺の中にもアルレットとダントンに感情移入できるように、親子の情愛がしっかり描かれていました。

機会をいただけるならラブストーリーにもチャレンジしてみたいんですよ。岩井俊二監督の『Love Letter』(1995年)や、ウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』(1994年)に『天使の涙』(1995年)がものすごく好きなんです。そういう要素が『Twilight AXIS』も入っていて、人間ドラマをしっかり描きたいという思いは常にありますね。でも、みんなびっくりするんです、「アクションものがやりたいんじゃないんだ!?」って(笑)。それと、アルレットたちの物語すべてをつまびらかにするのもよくないだろうと思いました。あくまで長い物語の中からいくつかピックアップして、6本のショートフィルムにまとめたという点にこだわりました。

作画の負担を減らしたデザインを

──物語の後半に登場するクレヴェナールとアハヴァ・アジールは本作のオリジナル機体になりますが、どういうコンセプトでデザインをされたのでしょうか?

今回はアニメーター出身の自分と阿部さんがメカデザインを担当したのですが、“制作の現場で手描きのプロセスに適したメカデザインを作り、作品を完成させる”というトライアルも含まれていました。スタッフも予算もコンパクトな現場だと、線が多くて複雑なメカは手描きだと動かすのが大変だったり、頑張って動かしてもフォルムがカッコよくならなかったり、アニメーターの評価につながるのが難しいんです。今回は原画さんが描いて動画さんが割っていくことを考慮に入れて、なるべくシンプルなデザインにしてみました。もしかしたら3DCGのメカデザインを見慣れた方には物足りないかも知れません。でもダイナミックなアクションは手描きでしか味わえないものなので、そこを楽しんでいただけたらうれしいですね。

──細かい話なんですけど、主人公側のアハヴァ・アジールの頭部が一瞬、ツインアイに光るシーンがありますよね? ジオン系のモビルアーマーなのに。

アハヴァ・アジールにはモノアイも、ツインアイもあるんですよ。主人公のアルレットはシャアが見込んだほどの優秀なエンジニアなので、敵側のシステムだろうと何でも試したかったはずなんです。アハヴァ・アジールは、モノアイとツインアイのメリットとデメリットを調べるために双方のシステムを搭載した試作機、という設定にしています。最後に1カットだけツインアイを見せるんですが、サイコフレームの発動と連動してオフになっていたツインアイにも光が宿った……というのが自分のイメージです。ちなみにアハヴァ・アジールのコンセプトは、頭がちょっとデカくて尻尾がある“虫っぽい宇宙人”です。ファンネルを連結させて尻尾にしてみたり、かなり自由にデザインしてますね(笑)。

──キャラクターも作画のしやすさを考慮に入れてデザインをされたのでしょうか?

そうですね。Ark Performanceさんが描かれるキャラクターはどれもすばらしいので、まずはその良さを殺さないようにアニメのデザインをまとめていきました。そのうえで設定画稿では描きやすいように、カゲもシンプルにしています。カットによってはいろいろ盛りたくなるだろうから、そのときに線を足したりカゲを入れたりすればいいという判断なんです。でも、キャラも含めて5割は自分で描いちゃっているんですけどね(笑)。Ark Performanceさんの挿絵だと頭身が少し低いのですが、アニメでは少し大人っぽくして服に色を入れたり、髪も少し盛っています。戦闘中はずっとヘルメットを被っているので、普通の髪型で登場するシーンで強調しておかないと、印象に残らないんじゃないかなとちょっと気になったんです。第4話のアルレットは四季ごとに服装を変えているんですよ。ダントンも服装で変化を入れてますね。ストーリーが全体的に重い感じなので、おとなしめのキャラでも色や服装、髪型に変化を加えることで個性が出るようにしています。クァンタンはほぼヘルメットを被ったままなので、唯一ヘルメットを取るシーンではカゲを濃くしてイメージが強くなるようにしてみました。

特別編の『赤き残影』は物語の総集編としてまとめたもの

──『Twilight AXIS』は金監督のカラーが強く出た作品になったのではないでしょうか?

ガンダム作品で恐らくこれ以上ないくらい自由にやらせてもらえたかなと思います。自分のカラーがどういうものかはまだよくわからないんですけど、これまで培ってきた技術や好きな作品から刺激を受けたもの惜しみなく注ぎ込んだのがアニメ版の『Twilight AXIS』ですね。さらに特別編の『赤き残影』は、単に6本のショートフィルムをつなげたものではなく、『Twilight AXIS』という大きな物語の総集編として私なりにまとめた映像になっています。アニメだけですべてが分かる内容ではないので、そういう意味では少し不親切かも知れません。でも小説や漫画が展開されていますので、アニメではフォローできていない部分はそちらで楽しんでいただけたら、手がけた者のひとりとして嬉しいですね。

PROFILE

金 世俊(キム・セジュン)
韓国出身。アニメーター。「サンライズ作画塾」を経て、多くのサンライズ作品に参加。『機動戦士ガンダムUC』メカニカル作画監督、『機動戦士ガンダムAGE』メカ作画監督、『ガンダムビルドファイターズ』でチーフメカアニメーター、『ワンパンマン』で作画監督を務める。『機動戦士ガンダム Twilight AXIS』が初監督となる。

<上映情報>

機動戦士ガンダム サンダーボルト BANDIT FLOWER
[同時上映]機動戦士ガンダム Twilight AXIS 赤き残影
大ヒット上映中!

<Blu-ray発売情報>

機動戦士ガンダム Twilight AXIS 赤き残影 [期間限定生産版]
2018年2月23日発売
Blu-ray:¥3,800(税抜)

機動戦士ガンダム Twilight AXIS 公式サイト

続きを読む

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

インタビュー

© Bandai Namco Filmworks Inc. All Rights Reserved.