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『メガロボクス』のめざす「あした」(アニメ・特撮研究家 氷川竜介)

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『あしたのジョー』連載開始50周年の節目に生み出されたオリジナルTVアニメ『メガロボクス』。 ハイテンションで駆け抜けてきた同作もいよいよクライマックスだ。 最終話の放送に先駆け、アニメ研究家の氷川竜介氏が、神話的物語と向き合った『メガロボクス』の挑戦、その魅力の核心に迫る!

語り直しが至難な高度成長期の神話

映像の世界では、世界的に「物語の語り直し」がブームだ。リメイク、リブート、プリクエル、続編、外伝、呼び名もさまざまである。そのまま作り直したり再解釈したり、時間軸を前や後に変えたり、視点を本線から外して人気キャラをフォーカスしたり……。ありとあらゆる手法で原典を語り直す。目的は「いまの観客のニーズ」にフィットさせることで、その部分がなければ単なるリピートで充分なのである。
さて『あしたのジョー』の物語が、そうした「語り直し」にふさわしいのは、言うまでもない。流浪の少年だった矢吹 丈(ジョー)が元ボクサーの丹下段平に才能を見いだされ、当初はボクシングに興味がなかったものの、次第にのめりこむとともに成長していく。過程だけとれば多くのスポーツものと同じだが、違うのはジョーが野性児でルールや常識を破って勝ち上がっていくこと。そして宿命のライバル・力石 徹との出会いを通じ、すべてを賭けて戦った結果、親友でもあった力石を死に至らしめるという悲劇的展開は、漫画キャラクターでは初の葬儀が出るというほどの衝撃を現実世界にもあたえた。

神話的とさえ言えるその純粋さを追求した物語は、だからこそ「語り直し」が難しい。理由はいくつも挙げられるが、最大の難点は「時代性との同期」であろう。原作漫画の連載は、「週刊少年マガジン」(講談社)1968年1月1日号(発売は前年)から1973年5月13日号までと、途中休載を含んで5年半近くを要している。その間、日本の世相も高度成長期から学園闘争や大阪万国博覧会を経て、オイルショックと終末ブームになって暗転するぐらい、大きな変化を迎えていた。
たとえばドヤ街や建設工事など肉体労働の描写は、高度成長のためのインフラ整備が盛んだったからのものだ。テレビが無料でボクシング、プロレス、野球を中継していたのも、そうした人たちを含む大衆向け娯楽だからだ。同作の原作者・梶原一騎(高森朝雄)のスポーツものが連続してヒットしたのも、こうしたバックグラウンドがあったがゆえで、それを切り離して現代に持ってくること自体に無理があるのだ。
さらに『あしたのジョー』の場合は、物語自身が大きく成長するものだった点も特別だった。物語を書いた梶原一騎、それに必要なものを加えて漫画として描きぬいたちばてつや。作品づくりにも「戦い」と「成長」が内包されていた。力石徹が過酷な減量をしてまで矢吹丈との戦いに固執するという最初のクライマックスも、体重差による「階級」を知らずに力石の体格を大きくしてしまった漫画側に原因がある。それをエラーとせず、物語自体のエンジンに変えてしまうような奇跡が随所に宿り、メインタイトルどおり見えない「あした」を求める物語となったからこそ、語り継がれる高みに到達できたわけだ。
そうしたプロセスを経て神話クラスの作品を単になぞってしまえば、用意された目的のための展開に観客は予定調和のにおいを察知し、心が離れてしまう。とは言うものの、そこまでの難敵に戦いを挑んで乗りこえれば、奇跡をもう一度起こせるかもしれない。『あしたのジョー』連載開始50周年記念作品という運命を背負った『メガロボクス』とは、そんな意気込みが伝わってくる作品なのである。

違う設定と物語が神話的エッセンスを抽出する

細かい要素の比較はキリがないし、『メガロボクス』から興味をもって『あしたのジョー』の原作を読んだりアニメ版を観たりする人も少なくないだろうから、お楽しみを阻害しかねないことを警戒してここでは深入りしない。挑戦の魂や改訂の中で、筆者が感心した点に絞れば、ポイントは3つ挙げられる。
1つ目は原作という「過去」を再現する方向性ではなく、「未来」へ物語を投影したこと。2つ目は「ギア」というアイデアの導入で、ボクシングを発展させたオリジナルのスポーツを発明したこと。そして3つ目は原作の登場人物やその配置、場合によっては性格や役割を徹底的に分解し、必要があれば大きく改変して再構築したことだ。
貧富の差が激しい昭和40年代の風景はピンと来なくても、いまの社会のまま進んだら未来はこうなるという話なら、若い視聴者も自分に引き寄せられる。テレビ中継がなくなって久しいボクシングには興味なくても、メカで武装した未来スポーツなら新しいものとして受容できる。過去見たような人物が似たような行為をするのはうんざりだが、何をするか分からなければ興味津々だ。

これらすべてが連動することで、大きく違っているはずのものが、むしろ非常に近いものに見えてくる。荒技で各要素を取捨選択し、形を変えたり入れ替えたりという複雑なパズルの分解組み立てのような積みかさねを経て、それでも変わらずに残るものこそがエッセンス――真髄であり、最重要な本質ということだろう。これはわずか13話という短い時間の物語に濃縮したからこそ生まれた効果でもあるし、「あした」は分からないからこそ意味があるのだから、誰も先が読めないものを作るのが『あしたのジョー』という神話に誠実に向き合うということだったのかもしれない。
変えた設定や物語が新しいドラマを呼びこみ、展開にも驚きが生じて目が離せなくなった。たとえば主人公の外見や名前が矢吹丈と大きく違うため「?」という感覚が生じたのに対し、IDに入れた名前が「ジョー」だったときに生まれる「!」という驚きが、その代表だ。こうした急所は観客自身が見つけるように仕掛けてあるから、「あ、そう来たか!」という快楽が没入感を生む。
それはすでに『あしたのジョー』を経験した者にとっては、完全オリジナル作品とも違う驚きだ。もとのコースを離れているように見えていたのに、違う次元やレイヤーを通って軌道がピタリと一致することによる驚きは、なかなか他に類をみないものだ。ことに最終ステージ、どん底から勝ち上がってきたジョーに対峙すべく、メガロボクスの頂点にいたはずのチャンピオン勇利がジョーと拳を交えるべく、同等の高さに立とうとする展開は、最大級の驚きを触発するはずである。

そこに至って急激にスポットライトが当たってくるのが、何度かくり返される「本物」というキーワードだ。それはもっとも原典と離れていたかのように見える南部贋作という男のとったドラスティックな行動が、「贋作」という珍妙に思えたネーミングの真意を浮き彫りにした結果でもある。その瞬間に、かつての原典と寸分違わない名セリフ「立て! 立つんだジョー!」が、たった1回だけ使われる。この抑制こそ、先に述べた「エッセンスの抽出」が本作の目的だったという証拠に他ならない。

つまり――『メガロボクス』という作品が『あしたのジョー』の「贋作」で終わるのかどうか、「本物」になれるのかどうか、森山洋監督以下、スタッフ・キャスト全員が命をかけた勝負を挑んでいるという、メタな次元での戦いであり挑戦をしていたということなのである。
かつての熱気もすっかり冷め、コピーがコピーを生んでるかのような、贋作にあふれたようにも見えるこの2018年に、ここまでの情熱と意欲を注ぎこめるという実作による証明。それ自体が奇跡的である。
最終回には、はたしてどういうゴールが待っているのだろうか。答え合わせ的な表層の異同にとらわれることの無意味さを知ったいま、新しい神話としての高みと志の着地を見届けたい。

PROFILE

氷川竜介(ひかわりゅうすけ)
アニメ・特撮研究家、明治大学大学院特任教授。1958年生まれ、東京工業大学卒。NHK番組「BSアニメ夜話」解説者、文化庁メディア芸術祭審査委員、毎日映画コンクール審査委員などを歴任。主な編著等:「日本アニメーションガイド ロボットアニメ編」(文化庁向け報告書)。「細田守の世界―希望と奇跡を生むアニメーション」(祥伝社、2015年)など。

<Blu-ray BOX発売情報>

『あしたのジョー』連載開始50周年企画 メガロボクス Blu-ray BOX 1[特装限定版]
2018年7月27日発売!
¥13,000(税抜)

特典
■新作ショートアニメ“BEFORE THE ROUND ONE”
イノセントで野蛮な犬は毒消しの血清を知らない
■特製メイキングブック
■特製絵コンテブック【ROUND1 “BUY OR DIE?”】(絵コンテ:森山 洋)
■MAKING OF MEGALOBOX 第一章 企画編
■プレミア試写会
■超特報
■特報1
■特報2
■本編オーディオコメンタリー ROUND1【スタッフ編】
出演:森山 洋(監督・コンセプトデザイン)・真辺克彦(脚本)・
小嶋健作(脚本)・藤吉美那子(プロデューサー)
■本編オーディオコメンタリー ROUND4【チーム番外地編】
出演:細谷佳正(ジョー役)・斎藤志郎(南部贋作役)・村瀬迪与(サチオ役)・
三好慶一郎(音響監督)・森山 洋
■森山 洋 描き下ろしイラスト仕様特製BOX
■清水 洋(キャラクターデザイン・総作画監督)描き下ろしイラスト仕様インナージャケット
※特典・仕様等は予告なく変更する場合がございます。

BOX 第2巻:9月26日発売/BOX 第3巻:11月22日発売
各¥13,000(税抜)
※特装限定版は予告なく生産を終了する場合がございます。

メガロボクス 公式サイト

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