「横道世之介」沖田修一監督オフィシャルインタビュー!

──公開から時間が経ちましたが、作品に対する思いは?
本当に沢山の方に観て頂き、感想も頂きまして、何だか自分が作った作品なのか、監督した作品なのか、よく分からなくなっていますね(笑)。しつこいくらい何度も上映して欲しいなと。尺もかなり長いので色々と見どころはありますし、何度見返しても面白いかなと思います。
──原作のどこに一番惹かれて映画化しようと思いましたか?
原作を読んで、世之介や祥子はもちろん、倉持、加藤、千春などの登場人物を実際に役者が演じたらどんな風になるんだろうという興味がありまして、それをスクリーンで観てみたいという気持ちがありました。よく「自分の好きな作品が映画化したらどんなキャストがいい?」とかあるじゃないですか? あれと同じような気持ちでしたね。
──映画化する際に、一番気をつけた点、こうしたいなと思った点は?
主人公が19歳の頃の話ということで、もちろん自分にも若い頃はありましたし、それぐらいの年齢の人が持つ感覚というか、そういった部分を面白がってもらえるような映画にしたいなとは思っていました。1987年という時代設定はあるんですけど、誰もが一度は経験するような、一人暮らしをしたり、バイトを始めてみたりといった、あまり時代に拘らない普遍的な青春映画になるように心掛けました。
──作品(1987年という時代設定)の雰囲気作りについて
まず一昔前であればそれでいいんだという大雑把な考えでした。1987年当時、僕はまだ小学5年生くらいだったので、細かく指示を出すよりも、僕よりよっぽどその時代に詳しい方が沢山いたので、その話を聞きながら、むしろ教えてもらいながら作り込んでいきました。
──お気に入りのシーンは?
特に思い入れがあるのは、クリスマスの雪の中で世之介と祥子がキスするシーンですかね。結構な長回しのシーンなんですが、雪を降らせて、それを大クレーンで撮影して…と様々な部署が色々な頑張りを見せてくれたという意味でもお気に入りです。また、そのシーンを撮影してクランクアップということもあったので、なおさら余計に思い入れがあります。他にはボートピープルのシーンですかね。ああいったシーンを今まで撮ったことがなかったので。船から照明ライトを焚いたり、ベトナムの方に来てもらったりと凄く大掛かりで…。若干『プラトーン』みたいになっていましたね! いやそれは『プラトーン』に失礼か(笑)。まぁとにかく手間暇かけた大変なシーンでした。あとは、世之介と倉持の合宿の風呂場のシーンは何テイクも撮ったので大変だった覚えがあります。というか、大変だったシーンのことばかりですね(笑)。
──印象に残っているロケ地について
世之介が千春と初めて出会うカフェですかね。当然、現代の物が映っているとおかしいので、東京から離れたところでロケ地を探していたんですけど、喫茶店やカフェって移り変わりが激しくてあまりいいところがない。しかも、雨を降らせたり色々なことをやらなければいけないシーンだったので、仕方なく今ある喫茶店にお願いして、内装を1980年代っぽく作り替えて撮影させてもらいました。
──撮影現場での印象深いエピソードについて
ダブルデートの待ち合わせのシーンで駅前のセットを全部作って撮影したんですけど、その時に車販売のクレープ屋さんにも来てもらって、わざわざ焼いてもらったりもしたんですけど、結局映らなかったんですよね(笑)。本当に申し訳なかったです。メイキング映像をくまなく観れば映っているかもしれませんね(笑)。
──編集時のエピソードなど
元々が長い映画ですが、それでも泣く泣くカットしたシーンはいくつかありました。田中こなつさん(サンバサークルの先輩役)の指導で、世之介が汗だくになりながらサンバの踊りを練習するシーンとか、世之介とさくらが階段で降りた後に港で話すシーンだとか、台本上はなくても成立するんですけど、割と好きなシーンだったのでもったいないなと思いましたね。あと、過去と現代のシーンの繋ぎ方は元々はフェードアウトするぐらいの感じで考えていたんですけど、編集の方と話をしていく中で全てカットだけで繋ごうということになりました。その方が唐突な感じがして面白いし、観ている人は「一瞬なんだ?」ってなると思うので、あまり説明せず徐々に分からせていくという原作の雰囲気を、極端な形ではありますが表現できたのではと思います。
──露骨に泣けるシーンを避けているように感じたんですが、何か理由は?
本作『横道世之介』の場合は、まず世之介の死という前提があるからなんですけど、泣きのシーンで感動ということではなくて、何かキラキラ輝くものに関して泣きそうになるというか、世之介が笑っているのを観て泣きそうになるというのが一番素晴らしい形なんじゃないかなと思いました。原作者の吉田さんがまず初めに「コメディで!」と仰っていたのは、“感動のドラマ”みたいにしないでくださいってことなのかなと。「泣いてください」という演出もできたとは思うんですけど、“笑い”と“泣き”が同居している方が豊かで楽しいと思うんですよね。
──今後どういったテーマの作品を手掛けたいとお考えですか?
その時、面白いと感じたものを撮りたいですね。あとは今までやったことのない、若い女の子が主演の作品をやってみたい気もしますし、家族の話がやっぱり好きなのでそういった作品をこれからもずっとやっていきたいですね。
──最後にファンへメッセージをお願いします!
とても情報量が多い作品なので、映画館でご覧になってくれた方も見逃している要素がたくさんあるかと思います。監督の僕自身が編集しながら初めて気付いたことがあるぐらい細かい部分まで作り込んでいるので、パッケージを購入して頂き、何度も観て楽しんでもらえたらと思います。