AV評論家 鳥居一豊が観た
『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』

4K ULTRA HD Blu-rayで発売される『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』の4Kリマスター映像を見たときの衝撃は凄まじいものだった。光学迷彩をまとってビルの谷間に消えていく草薙素子の姿に息を呑む。ビルの夜景が輝きを増し、ディテイルも鮮明だ。そこに当時最新のデジタル技術を駆使した映像効果でセルで描かれた少佐の姿が溶け込んでいく。公開当時に感激した鮮烈なビジュアルが、公開当時を超える情報量で目の前に現れたのだ。 LD(レーザーディスク)、DVD、そしてBDと、本作は何度もソフト化されてきたし、そのたびに映像は情報量を増してきた。しかし、4K ULTRA HD Blu-rayの映像はそれらとは次元が違っていた。おおげさに言うと、オリジナルのフィルムを見ているというよりも、背景画にセルを重ねた撮影前の状態を見ているかのようだった。35mmフィルムにこれほどの情報量が眠っていたことに改めて驚かされてしまった。

場面写真

見どころを上げればキリがない。膨大な数の看板が目立つ古びた街並は、色褪せたビルの色彩や毒々しい極彩色で彩られた看板の鮮やかな色にハッとする。そこに描かれるキャラクターの動きも鮮明だ。暗い室内などでは、今までは黒く沈んでいたはずの影の部分に豊かなディテイルが蘇っていることに気付く。明るい街の影の落ちた部分、暗い室内で浮かび上がるように描かれるフォログラフィックのデータ表示、より深みを増したキャラクターの陰影など、あらゆる場面で映像の密度が高まっている。

場面写真

これは、HDRによる高輝度表現やBT.2020の広色域表示などの恩恵も大きい。光と影、豊かな色が高精細で緻密に描かれることで、今までとはまるで別の作品のような印象になっている。劇場で初めて作品を見たとき以上の体験だった。 現代のデジタル制作の新作に比べて、フィルム制作時代の旧作は情報量としては物足りない古さを感じる人は少なくないかもしれない。しかし、それは大きな間違いだった。フィルムの持つ情報量は4K ULTRA Blu-rayで初めてすべてを見ることができるもの。これはもう、まったく新しい体験だ。ファンならば必見の映像であることは間違いないが、まだ見たことがないという人にもぜひ見てほしい。これだけ密度の高い映像は最新の作品でも決して多くはない。この作品が国内どころか海外でも高く評価されている理由も、改めて実感できるはずだ。

鳥居一豊
オーディオ・ビジュアル専門誌での編集スタッフを経て、フリーライターとして独立。月刊「HiVi」誌のほか、さまざまな媒体でオーディオ、ビジュアル関連の記事を執筆中。アニメとの付き合いは小学生以来。趣味として膨大なテレビアニメや劇場用アニメ、OVAを見続けている。自宅には約15畳強のサイズの専用シアタールームがあり、4K映像とドルビーアトモス対応の4.2.2ch音響システムで映画やアニメを堪能する日々を過ごしている。

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