AV評論家 鳥居一豊が観た
『逆襲のシャア』

アムロ・レイとシャア・アズナブル。「ガンダム」における最も有名なキャラクターの最後の戦いを描いた『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』。その4K ULTRA HD Blu-ray版は、一年戦争から続いたふたりの因縁に決着を付ける作品にふさわしい、凄みのある映像に仕上がっていた。

場面写真

まず、宇宙が黒く、深く、美しい。戦いの舞台ともなる宇宙空間は、漆黒と言える闇に星々がきらめき、遙か彼方には美しい色彩で描かれた星雲も見える。暗部の再現性が高まったことで、黒はその幅と深みを増し、星々がより鮮やかに再現されている。そこにシャアの駆るサザビーの赤い機体が現れる。豊かな赤色の色彩はさらに豊かな発色となり、真っ暗な宇宙に浮かび上がる。4Kの高精細な映像は作画の質も高いレベルにあることが改めて実感できるものとなっている。そんなモビルスーツがハイスピードで戦いを繰り広げる様子は、まさに見応え満点。

アムロの乗るνガンダムの白い機体も宇宙に映える。胸部などの黒いパーツが宇宙の黒に溶け込むこともなく、明瞭に描き分けられることもあって、その姿はより精悍さを増した印象になっている。 HDRの高輝度な表現では、ビームサーベルやビームライフルといった通常兵器の光でも堪能できるが、それらとは明らかに光の強さが違って描かれる核ミサイルの爆発も恐ろしいものがある。その威力の凄まじさがよく伝わるだけに、それを使って地球を人の住めない場所にしようとしたシャアの狂気が倍増したかのようだ。

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そして、クライマックスで現れるサイコフレームによる緑の光。高輝度ではないが、まさに温かみのある優しい光という感触がよく出ている。優れた映像は物語への共感を増し、そこで描かれるドラマをよりじっくり味わえるものにしてくれる。4K ULTRA HD Blu-rayの密度の高い映像は、まさに画面に吸い込まれるような感覚で、テレビにぐっと近づいて観たくなる。ノイズが目障りになることもなく、美しい色彩や細かく描かれたディテールがよりよくわかる。これは、映画館の大きなスクリーンで食い入るように見ていたときの感覚そのままだ。

モビルスーツが戦いを繰り広げる迫力ある映像はもちろんだが、「ガンダム」という作品が一貫して描いてきた戦いというドラマを存分に味わい尽くしてほしい。何度観ても見飽きない。4K ULTRA HD Blu-rayの映像にはそれだけの情報量が詰まっている。

鳥居一豊
オーディオ・ビジュアル専門誌での編集スタッフを経て、フリーライターとして独立。月刊「HiVi」誌のほか、さまざまな媒体でオーディオ、ビジュアル関連の記事を執筆中。アニメとの付き合いは小学生以来。趣味として膨大なテレビアニメや劇場用アニメ、OVAを見続けている。自宅には約15畳強のサイズの専用シアタールームがあり、4K映像とドルビーアトモス対応の4.2.2ch音響システムで映画やアニメを堪能する日々を過ごしている。

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