映画『百日紅(さるすべり)〜Miss HOKUSAI〜 原 恵一監督インタビュー

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映画『百日紅(さるすべり)〜Miss HOKUSAI〜 原 恵一監督インタビュー全文掲載

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著名な江戸風俗研究家であり、文筆家・漫画家である杉浦日向子の漫画代表作「百日紅」が、原 恵一監督の手により、待望の娯楽長編アニメーション大作として甦る。原作の魅力や映像化する際の苦労など、原 恵一監督に話を伺った。

杉浦作品は素晴らしいと思うのと
同時に嫉妬の対象

―― 監督ご自身が感じている原作(杉浦作品)の魅力とは?
江戸を舞台にしているんですけど、同時に物凄く身近なものにも感じられるところですかね。杉浦さんは漫画家や文筆家としても優れた方なんですが、とにかく演出力が凄いんですよ。結局お会いすることはできませんでしたが、いつも作品を見る度に嫉妬していましたね(笑)。「なんでこんなに凄い作品が描けるんだろう、この人は」って。江戸の考証に長けているのはもちろんなんですけど、やっぱり人間の描き方が優れていると思うんです。物語の中に引っぱり込もうっていう作為が感じられない良さがあるんですよ。演出をやる上でそこが一番目指したいところなので、それが自然にできている杉浦作品は、素晴らしいと思うのと同時に、嫉妬の対象でもありました。
[V-STORAGE online 限定]―― 本作の監督を務めることになった経緯を教えてください。

石川光久さん(Production I.G代表取締役社長)から「百日紅」をアニメ化してみないかという話を頂いたんです。杉浦日向子さんの原作が昔から大好きで、僕にとっては杉浦さんの作品の中でもとりわけ「百日紅」は好きだったし、杉浦作品の映像化は僕の兼ねてからの夢でもあったので、「ぜひやらせてもらいます」と二つ返事で引き受けました。

―― 本作を映像化する際に悩まれた点などがあれば教えてください。
とにかく原作が好きで、それを映像化した時に杉浦さんの原作を劣化させてしまうんじゃないかという心配はありました。映画として作るのであれば「原作を読めば分かるから、原作を読んでください」では済まないわけですよ。「百日紅」という原作から生まれた新しい一本の映画にしないといけない。だからといって原作の雰囲気は壊したくないし、その辺が悩みどころでした。絵コンテを描いていても、杉浦さんのアングルやコマ割りはなるべく活かしてやっています。ただ、それだけだとやっぱり新しい映画を創るということにはならないと思うので、「原作の雰囲気を壊さずにどうやって魅力を伝えるか」というところは凄く悩みました。
[V-STORAGE online 限定]―― 実際にアニメーション化するにあたり、キャラクターデザインの板津匡覧さん、美術監督の大野広司さん、色彩設計の橋本賢さんとはどのようなやりとりをされたのでしょうか?

まずキャラクターデザインに関してですが、主人公のお栄を原作よりも美形にしています。原作では他の登場人物にスポットをあてた話もあるのですが、映画では主人公=お栄として作っているので、キャラクターデザインの板津さんと話し合い、「もう少し美形にしよう」ということになりました。でも、どこか完璧ではない部分が欲しかったので、眉を太くしました。それが彼女の意志の強さの現れにもなっていると思ったので。次に美術ですが、事前に美術監督の大野さんには「こんな絵の感じで」と、ある画家さんの絵を見てもらったりしました。杉浦さんの原作はすっきりした絵が多いので、淡い水彩画のタッチでいこうとすればできたんですけど、「リアル過ぎないけど、現実味がどこかにある感じ」を出したくて今の形になりました。キャラクターとも上手くマッチした背景に仕上ったと思います。色彩設計の橋本さんについては、凄くセンスの良い方だなと思いました。最初に出してくれたカラーリングがとても良い感じの色を提示してくれていて、全体のバランスも考えてくれていたので、非常に楽でしたね。ただ、お栄が着る着物の色に関しては、僕の方から「白をベースに」とお願いさせてもらいました。


イメージ通りのキャスティングが
叶った幸福感

[V-STORAGE online 限定]―― 本作の見どころを教えてください。

お栄という実在の人物の葛藤だったり、悲しみだったり、そういった部分が江戸ものではあってもただの昔話ではない、現代と地続きな物語として今の観客に伝わればと思っています。特に女性に共感してもらえる作品にしたかったので、僕なりになるべく華やかにしたつもりです(笑)。前作の「カラフル」という作品は、あえて渋めに作ったので、今回はちょっと華やかにしてみようという意識を持って作りました。

―― アフレコの手応えはいかがですか?
今回のキャスティングは過去にご一緒した方だったり、自分が思い描いていた通りの人で固められたので、とても手応えを感じています。この絵にはこの人の声がハマるだろうと意識しながらキャスティングしたこともあって、実際にその方たちに演じてもらえることに対しての幸福感もあるし、間違いもなかったと思っています。お栄役に女優の杏さんを起用した理由は、山田太一さんのドラマ「キルトの家」を観たのがきっかけでした。その時の杏さんの演技を見て、女優として意識するようになり、タイミングが合えば彼女とご一緒してみたいと思っていました。今回の「百日紅(さるすべり)〜Miss HOKUSAI〜」のキャスティングの際、杏さんが歴史好きなことは知っていましたし、もしかしたら杉浦作品も読んでいるんじゃないかと思っていました。オファーをしてみたら「杉浦さんの作品は大好きです!」とのことで、快く引き受けて頂けました。
[V-STORAGE online 限定]―― では最後に、読者へのメッセージをお願いします。

時代劇なんか年寄りが観るものだと思いがちですが、「百日紅(さるすべり)〜Miss HOKUSAI〜」は今の若い人たちが観ても楽しめる作品になっていると思います。「なんだ時代劇かぁ」と肩肘張らずに観て頂きたいですね。杉浦さんの原作を知らない人でも、この映画を観て頂ければ原作を読みたくなるはずです!

原 恵一 PROFILE
原 恵一(はらけいいち) 日本を代表するアニメーション監督。1959年生まれ。群馬県出身。代表作に『映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』を始め、『河童のクゥと夏休み』『カラフル』などがある。

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